ビルゲイツの「トイレ革命」
開発途上国では、トイレの不衛生、あるいはトイレがないことによって感染症にかかり、毎日1000人近くの人々が命を失っています。
そんな開発途上国の状況と本気で向き合っているアメリカの経営者がいる。
ソフトウェアの世界的企業、マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツだ。
彼は開発途上国の死者数を減らすために、約2億ドル(約210億円)の資金を投じて新しいタイプの汚水処理装置を開発した。
世界には自宅にトイレを持たない人が40億人以上いる。
アフリカ、南アジア、中南米には、屋外で排泄をせざるをえない地域が少なくない。
アフリカはとくに深刻で、下痢によって年間300万人が命を失っている。
幼い子どもの状況はとくにひどく、12%が5歳の誕生日を迎えることなく息を引き取っているという。
理由は水と排泄物の問題だ。
トイレの環境が整っていない地域では、排泄物を流す川の水がそのまま飲用水にされている。
健康でいられるはずがない
汲み取り式トイレがある村でも、バキュームカーや下水処理施設はない。便器のまわりは汚れ放題。そこで排泄をする人はほとんどいない。屋外のほうがまだましなのだ。
ビル・ゲイツはこのような世界のトイレの問題を知り、本気でこの問題に対して取り組むことになった。
「僕のいる世界では下痢で子どもを失う親など、1人たりとも会ったことがない。そこで不思議に思った。世界は大量にある資源を使って撲滅策を講じているのか?」
社会貢献として、ビル・ゲイツはマイクロソフトを通じてアフリカに多くのパソコンを寄贈していた。
しかし、その効果がなかなか実感できないでいた。
そんな経緯で、ビルと妻のメリンダ・ゲイツが運営する慈善基金団体、ビル&メリンダ・ゲイツ財団は約2億ドルを投じて、途上国の命を救うためのトイレと下水設備の開発を始めたのだ。
では、アフリカに先進国と同じような下水道や下水処理施設をつくればいいのか――。
ビル・ゲイツは思案するが、現実的ではなかった。
数百億ドルものコストがかかってしまい、開発途上国には普及しない。
そこで、軍事用の機密部品をつくっている会社を訪ねた。
そこに開発途上国を救うための汚水処理装置の開発を依頼した。
そして18カ月をかけて、水も電気も使わず、排泄物を溜めるタンクもいらない汚水処理装置「オムニプロセッサー」を開発した。
トイレ問題を解決できる理想的な装置「オムニプロセッサー」は、完成したが、1つ重要な課題があった。
この装置を1台組み立てるには約5万ドル(約525万円)かかる。
そんな高額では、アフリカでは普及しない。
なんとしても量産体制をつくり、1台500ドル未満にしなくてはならない。
それには量産でコストを下げられる製造業者を見つける必要があった。
そこで手を挙げた会社がLIXILだった。
2018年11月6日、LIXILはメディアや関係各社に次の見出しのプレスリリースを送っている。
「LIXILがビル&メリンダ・ゲイツ財団とともに家庭用に世界初の『Reinvented Toilet』試験導入に向けパートナーシップを締結」
「Reinvented Toilet」とは、再発明されたトイレという意味。
試作品は住宅のように大きく、デザインは施されていなかった。
自己発電でウンチを処理し、しかも飲用水もつくるという機能は完成した。
しかし、まだ製品化できる段階ではない。
そこからのプロセスをLIXILが引き受けるという実に夢のある事業だ。
LIXILの発表文には、こう書かれていた。「株式会社LIXILは、ビル&メリンダ・ゲイツ財団と世界初の家庭向け『Reinvented Toilet』を開発し、2つ以上のマーケットへ試験導入することを視野に入れた、パートナーシップを締結しました。LIXILは技術、デザイン、商品開発における専門家チームを結成し、世界中の民間企業と協働しながら、試作品のトイレの開発をリードしていきます」
Reinvented Toiletの一刻も早い商品化を、世界中が待ち望んでいる。
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