トイレ問題に1人で挑んだ男の軌跡

1年間に25000回、障害では約3年間―これだけ人はトイレに入っている。

日本人にとっては当たり前であるトイレだが、世界には安全に整備されたトイレにアクセスできない人が42億人もいる。

更に、トイレが未整備のために土壌汚染が進み、毎日1400人の子どもが下痢で亡くなっている。

その現状を打破すべく立ち上がったのが、「ミスター・トイレ」こと呼ばれるジャックシムだ。

ジャック氏は40歳で全く経験のない状態から、世界のトイレ・衛生問題に取り組み、WTO(トイレ世界機関)を立ち上げ、2013年には、国連の全会一致で11月19日にトイレの日の制定にこぎつけた。

そんなクレイジーなジャック氏の軌跡を追った本「トイレは世界を救う」を紹介します。

「トイレは世界を救う」ジャック・シム

世界中どこにいっても欠かせないもの、それがトイレである。しかし、世界の3人に1人(約23億人)はトイレのない生活を送っている。

さらに、世界の人口の半数以上にあたる約42億人は、トイレがあっても、きちんとした下水処理がなされていない環境下にあるか、屋外で排泄している。これが、川や湖、地下水の汚染の原因となり、毎年52万人の子どもが、命を落としている。

また、世界中の女性の3人に1人が、安全なトイレ環境がないために、病気やレイプなどの危険にさらされている。「トイレが確保されることがポジティブ連鎖の始まり」。

著者は、この事実をより多くの人に気づいてもらうことを願っている。

きちんとしたトイレが使えると、人々は尊厳を取り戻し、病気が減少し、就学率が向上する。ひいては、生産性も向上し、貧困の減少に繋がる。

では、なぜ世界中のトイレ問題が改善されないのか。

最大の理由は、トイレ問題がタブーとされてきたためだ。

人々の羞恥心がトイレや衛生問題の解決を妨げている。これまで、世界にはさまざまなタブーが存在していた。奴隷制、LGBTなど、タブーを壊そうとする人が登場し、そのたびに社会は進化を遂げてきた。このように、タブーをなくせば世界は大きく変わる。

人々の考えを変え、トイレというタブーを打ち破るために、著者がとった戦略は

ユーモア(笑い)である。

なぜユーモアなのか。

例えば、「トイレを使わなければ病気になる、死の危険がある」などと、恐怖をかきたててトイレを普及させる方法もあるが、著者の経験上、恐怖をベースにすると、全体のエネルギーが縮小してしまうことがわかっていた。

一方、愛情をベースとしたアプローチをとれば、エネルギーが無限に広がる可能性がある。たった3人で運営しているWTOのミッションは、トイレという社会課題の認知を高め、トイレをステータス・シンボルにすることだ。

58カ国にまたがる235の協力メンバー団体とコラボレーションしながら、トイレ問題の普及に向けて、知恵を絞ってきた。

世の中に置けるトイレの優先順位は、残念ながら高くはない。トイレ問題を優先的にメディアで報道してもらうには、それが面白い内容であることが重要となる。そこで、ユーモアがその最強の橋渡し役になるのだ。

トイレをたくさんつくる、資金を募るという方法ではなく、タブーと闘うことを著者は選んだ。

それは、一人の人間で達成できることには限界があるためだ。

もし1万個のトイレをつくっても、世界が必要としているのは10億個のトイレである。しかし、たった一人でもムーブメントを起こせば、多くの変化が期待できる。タブーと闘うことは、文化や宗教といった「信念」の世界に一石を投じることに他ならないのです。

ムーブメントを生み出せば、多数の人が当事者になってくれる。

その際に大事なのは、倫理や慣習を振りかざして真の問題から目を背けることではなく、課題を直視して解決することである。

著者が考え出したのは、人々が「自分のため」に動くことでミッションが達成される仕組みだ。

トイレを世の中に行きわたらせるには、トイレ問題をメディアに多く取り上げてもらう必要がある。

そのために、ニュース価値があるストーリーを提供し続けた。

すると、このニュースに政治家は影響を受ける。

政治家は、票を集めるために、人々が注目するテーマを意識せざるを得ないからだ。政治家が方向性を定めると、今度は官僚が政策立案や予算配分を行う。

その予算から大学の研究費が支給され、学会にも影響が及ぶ。

さらには、セレブリティの注目を集めることで、そのテーマへの発信が増え、社会に影響を与えていく。

このようにして、各自の利己的な欲望を満たし、ムーブメントが起きていく。

すると、良い結果が社会にもたらされ、ミッションが達成されるのだ。

次に著者が行ったのは、

ストーリーを使ってトイレを広めるという戦略だ。

宗教上の理由から、トイレを家の中につくれない人もたくさんいる。トイレを優先するという考えが、その国に根づいていないから、家電や自動車を所有している家でも、トイレだけは裏庭の先の小屋にあることは珍しくない。

こうした問題をどのように解決するのか。

最も効果的なのは、若い人を教育して、その子供たちの家族に影響を及ぼすというルートである。

だから、まず始めにトイレをつくるのに適している場所は、学校だ。

学校に素晴らしいトイレをつくれば、子供たちは日々、よいトイレを使えるようになる。それが子どもたちのプライドや自己イメージにもよいインパクトを与え、トイレをつくることがよいという価値観をもつようになるのだ。

そして著者は、人の感情にも着目した。

「あなたたちの健康と衛生のために、トイレをつくってください」

途上国の村人たちに、論理的な説明で訴えかけたとしよう。

この話を理解して、実際に行動を移すのは、全体の2割ぐらいだ。

トイレの素晴らしさを説かれても、トイレをつくらない8割の人の考えや行動を変えるのは、極めて難しい。

なぜなら彼らは、野外での排泄が当たり前という社会に住んでいるからである。そうした場面で利用価値が高いのが、尊厳や誇りといった人々の感情だ。

例えば、母親が子供に対して、してはいけないことをわからせるために怒ったとしたら、それは建設的な怒りだ。

だが、これが虐待や暴力になると、それは破壊的な怒りになってしまう。

そこで著者は途上国でトイレを普及させるために、嫉妬という感情を活用し、人々の尊厳や誇りに働きかけた。

著者は、トイレの営業部隊を雇わなかった。

代わりに、地元の噂好きの女性たちに、「建設的な嫉妬」を醸成する手助けをしてもらった。

「あの人の家にはトイレがあるが、あの人の家にはトイレがない」

こうした噂をしてもらい、トイレがステータス・シンボルになるよう促したのである。

このように、人間の心理を活用し、トイレの普及をしていった。

著者は、トイレをつくることよりも、トイレがきちんと使い続けられるような文化や土壌を醸成することの方が難しいことに気が付いた。

この問題の解決策は、コミュニティのリーダーや政治家、民間企業、宗教リーダーのような人々の援助や土地の価値観を利用することである。

幸い、多くの宗教では清潔さが尊いものとされているため、人々に受け入れやすい。

清潔という価値を浸透させるのが最も容易なのは、

イスラム教である。

イスラム教では、人々は一日に5回祈りを捧げるが、その前に必ず自身を浄化しなければならない。トイレで身を清めて、礼拝するのが慣習であり、トイレの使い方についても、細かい決まりが定められている。

こうした事実をうまく活用することで、バングラデシュでは屋外で排泄する人口が34%から3%にまで、たったの15年で減少した。

また、インドの例でいうと、排泄物は完全なるタブーとされてきた。

不可触民でない限り、絶対に触ってはいけないというのだ。

このようにトイレ文化は国によって全く異なる。

そして、その土地に根づいている価値観を利用することは、極めて効果的なのである。

トイレ文化やトイレの教育がなければ、トイレを設置しても使われない。

また、故障したらそのまま放置されてしまう。

トイレをつくることは比較的容易でも、それを使い続けてもらう文化を醸成することの方がはるかに難しい。

日本の最大の輸出資源は、日本のトイレ文化だと著者はいう。

トイレを次に使う人を考える気遣いや、丁寧にものを扱おうという気持ち、トイレに対する期待値。

トイレを使い続けてもらうために、こうした日本の素晴らしいソフト・パワーこそ、世界に普及させるべき習慣である。

社会課題に対して、募金だけでは解決策にならない。

1500億ドル(約1兆6000億円)もの募金が、人道的支援のために集まっている。しかし、現在も約45億人が貧困に苦しんでいる。

これは、チャリティーモデルだけでは効果がなく、持続可能ではない証拠といえよう。

社会課題に貢献したいと考えている人は、「まだ充分に関心を向けられていない課題」に注目するとよい。

「糞」のように無視されている社会課題に苦しむ人々こそ、真に助けを必要としている。

さらには、これから起こす行動がインパクトを生みやすい。

そうした課題に立ち向かうには、他者を巻き込む力が必須となる。

では、どのように人々に協力を求めていけばよいのか。

著者が見つけた法則の一部は、次のようなものだ。

将棋のように、すべての可能性について考察を重ねること。

未来の到達点をイメージして、そこから現時点まで逆算して考えてみること。

自分の信念・目的を他の人々に共有し、彼らに活動の能動的な代弁者・代表者になってもらうこと。

そして、今日成功を思い描くことができなくても、いつか目標が達成されると強く信じることである。

貧困の撲滅、公衆衛生の改善といった大義は、一人では到底成し得ない。

これを理解し、謙虚になると、さまざまな人が引き寄せられてくる。

自分の功績やビジネスは、究極的には自分のものではないと心に留め、集まってきた人たちと協力することで、より大きなことを達成できるはずだ。

著者は、この社会起業以前にも16の会社を立ち上げ、成功を収めてきている。

本書では、そんな著者の人生哲学や活動に対する情熱なども語られている。

気になった方はこの本をぜひ手に取って読んでみてください。

株式会社EIはゴミや糞といった有機物の悪臭を化学薬品を使用せず、短期間で有機物のみで消臭するという技術を持った会社です。

弊社の技術を応用すれば、安価で簡単にトイレを清潔に保つことが可能です。

世界からトイレを使えずに困っている40億人を救えるよう日々尽力していきます。

株式会社EI ~自然完全消臭法~ 株式会社EI自然完全消臭法 消臭 糞臭 畜産環境問題 堆肥 消臭堆肥 トイレ 災害時用トイレ SDGs (ei-syosyu.co.jp)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。